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03/11 2026

KIJIMA TAKASHI, NEW YORK, 1960

戦後日本の広告黎明期に重要な役割を果たした写真家、杵島隆をご存じでしょうか。

植田正治に師事し、土門拳に見出され、「広告写真は写真ではない」と言われていた時代に広告業界へ飛び込み、多くの作品を残しました。さらに広告写真にとどまらず、自身の表現世界を追求し、日本の伝統文化や蘭、ヌードを題材とした作品によって、世界的にも高く評価された稀有な写真家です。

杵島はアメリカに生まれ、アメリカ国籍と日本人としてのアイデンティティのあいだで葛藤しました。特攻隊に志願しながらも生き残ったその経験は、彼の写真に独特のまなざしを与えているように思われます。杵島の写真には、強いものへの憧憬よりも、中心から外れたものへ向けられた眼差しが印象的です。

なかでも象徴的なのが、終戦の日に撮影された、道路に沈没船の絵を描く子どもを写した写真です。

1960年、杵島はアメリカの雑誌で広告賞を受賞し、授賞式のために渡米しました。その後、約2か月にわたりニューヨークを中心にアメリカに滞在します。

当時のアメリカは「黄金時代」とも呼ばれる文化的な活況のただなかにありました。公民権運動が高まり、ベトナム戦争が泥沼化する前夜。ケネディとニクソンが熾烈な大統領選を繰り広げていた時代です。このとき杵島は40歳、戦後になって初めて訪れたアメリカでした。

そのときに撮影された写真が、ひょんなことから私の前に現れたのは昨年のことでした。

見せていただいた写真はどれも、晩年の作品に見られるような緊張感のある構図や完璧なライティングによって構築された作品とは異なり、ゆるやかさを残しながらも、みずみずしい感性と一瞬を切り取る迫力に満ちていました。そして、当時の空気が生のまま閉じ込められているように感じられ、私はすこぶる興奮しました。

そして私は、どうしてもこの写真を写真集にしたいと思いました。

編集・構成は森岡書店の森岡督行さんにお願いし、試行錯誤を重ねました。また、杵島自身がまとめた年譜を再編集し、その人物像がより立ち上がるようなかたちに整えました。

現在、写真集と写真付きの特装版を制作しています。カバーをめくった表紙部分には、一冊一冊、テキサスブックセラーズの工房でシルクスクリーンによって題名を手刷りします。

さらに本書に寄せられた森岡督行さんの考察には、これまでにない杵島隆への視点が展開されており、作品世界をより深く味わうための手がかりとなっています。

1960年、ニューヨーク。
若き杵島隆が見つめたアメリカの空気を、ぜひ本書でご覧ください。


一般販売:6月1日

『KIJIMA TAKASHI, NEW YORK, 1960』出版記念展

銀座|森岡書店
5月26日〜6月1日(写真集先行販売)
https://www.instagram.com/moriokashoten/?hl=ja

広島|リーダン・ディート
6月6日〜6月21日(こっせつくんとの同時開催)
https://readan-deat.com/

京都|誠光社
7月1日〜7月7日(ポップアップ特集)
https://www.seikosha-books.com/

松山|本の轍
7月16日〜8月3日
https://www.honnowadachi.com/

盛岡|BOOKNERD
8月22日〜8月30日
https://booknerd.stores.jp/

※ほか会場も調整中