『脱税』

今年のトレンドは脱税！

いま日本では、若者から高齢者に至るまで、皆カジュアルに脱税を楽しんでいる。

事の発端は、国民的アイドルの美能ノガレだった。

ノガレは、1億年に一度の美少女と言われる容姿、圧倒的な歌唱力、そして誰をも惹きつけるカリスマ性によって、デビューからわずか3年で芸能界のトップへと駆け上がった。

ノガレの人気は老若男女を問わず、またその影響力も凄まじかった。ノガレが新しい服を着た写真が雑誌に載れば、

「ノガレちゃんが着たのと同じ服が欲しい！」

と注文が殺到し、即座に売り切れ。ノガレがスイーツを食べている写真をSNSに上げれば、

「ノガレちゃんが食べたのと同じものが食べたい！」

と店に押しかけ、たちまち大行列ができた。

そのノガレが、巨額の脱税で摘発された。

世間は騒然となった。メディアはノガレの人気もここまでかと騒ぎ立てた。

しかし、ノガレの影響力は尋常ではなかった。もはやノガレの一挙手一投足が全て流行になると言っても過言ではなかった。

「ノガレちゃんのやった”脱税”をやりたい！」

全国のノガレファンたちが、我も我もと脱税をやりだしたのだ。

初めのうちは、所得や売上をちょっと少なく申告して、所得税や消費税をごまかす程度だった。しかしあっという間にエスカレートしていき、年商1億円の会社が堂々と売上ゼロと申告するようになった。

税務署や警察は取り締まろうとしたが、あまりに件数が多すぎて、じきに諦めてしまった。それどころか、多くの税務署職員たちが、積極的に脱税に加担する有様だった。

もうどこの店でも、客は消費税抜きの価格で商品を買おうとする。店員の方も、消費税抜きの価格しか受け取ろうとしない。会社は社員の給料から源泉徴収するのをやめ、個人事業主は確定申告をしない。住民税なんか誰も払わない。ドライバーは自動車税を払わず、地主は固定資産税を払わず、遺族は相続税を払わない。愛煙家はたばこ税を払わず大喜びでスパスパ吸いまくる。

ファッション誌では脱税特集が組まれ、少年誌で連載開始したマンガ『ダツゼイ-DATSUZEI-』はすぐにアニメ化されて大ヒットとなり、映画化も決定している。

もはやノガレファンかどうかは関係なくなっていた。一億総脱税時代。

日本の税収は1000分の1にまで低下した。当然、財政は破綻に向かってまっしぐら。

「お願いですノガレさん、税金を納めるよう国民に訴えてください」

総理大臣みずから頼み込んだ結果、ノガレの謝罪会見が各種メディアで一斉に生中継されることになった。

「このたびは私の脱税のせいで、国民の皆様に多大なご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした……。皆様にお願いです。どうか、税金を納めてください。私も、今まで脱税してしまった分、一生懸命働いて返しますから……」

政府関係者は胸を撫で下ろした。よかった、これで日本の破滅は避けられた。

「それでは質疑応答に移りたいと思います。はい、どうぞ」

「ノガレさん、そもそも何故、脱税してしまったのでしょうか？　あなたほどの活躍ぶりなら、有り余るほどのお金があったのではないかと思うのですが、脱税に手を染めた理由をお聞かせください」

「はい、それが実は、お金は有り余るどころか、借金が何百億円もあって、税金を納めることができなかったんです……。2年ほど前、マカオでカジノというものに初めて行って、それからすっかりカジノにハマってしまいまして……」

今年のトレンドはカジノ！ いま日本では、若者から高齢者に至るまで、皆カジュアルにカジノを楽しん