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03/19 2025
《連載》いっ休さんのSHORT SHORT 「時代」

「あ! おじいちゃん、これ知ってる! これに乗って空を飛ぶんでしょ!」
8歳になる孫娘のひーちゃんが、ほうきを見てそう言った。可愛らしいもんだ。テレビやマンガで見た魔女っ子みたいなのに憧れているのかな。
そういえば、近頃ほうきで掃除してる人をめっきり見かけなくなった。ひーちゃんの家にも本物のほうきはないんだろう。ほうきの本来の使い道を知らないのも、無理はないかもしれない。時代の流れってやつだな。
ひーちゃん、それはほうきと言ってね、元は地面を掃いて掃除するのに使うんだよ。
え? おじいちゃんの家は、色んな道具があって面白いって? そうかいそうかい。ひーちゃんが喜んでくれて、おじいちゃんも嬉しいよ。
「あ! これも知ってる! 家の周りとかに吊るす飾りでしょ?」
ひーちゃん、それは飾りじゃなくて、CDっていうんだよ。確かにカラスよけに吊るしたりするけどね。その中には色々な音楽が入っていてね、専用の機械に入れたら聴けるようになっているんだ。
そうか、今は音楽もインターネットで聴く時代だからね、CDの本来の使い道を知らないのも無理はないかもしれない。時代の流れだね。
「これも知ってる! 殺し屋がよく舐め回してるやつでしょ?」
ひーちゃん? それは武器じゃなくて、果物ナイフだよ。その名の通り、果物の皮をむいたりするのに使うんだ。舐め回すものじゃないよ。
そうか、今はスーパーでも果物は皮がむかれてカットされた状態で売られているからね。本来の使い道を知らないのも無理はないかもしれないね。時代の流れだね。あと、危ないから触っちゃダメだよ。
「これも知ってる! 爪を剥がすのに使う拷問器具でしょ?」
ひーちゃん? それは拷問器具じゃなくて、ペンチだよ。針金や銅線を曲げたり切ったりして、機械を作ったり直したりするのに使うんだよ。人間の体に使っちゃ絶対ダメだよ。
でもそうか、今は自分の家で機械を修理する人もほとんどいないだろうからね、無理はないね。時代だね。あと危ないから触らないでね。
「これも知ってる! 釘をいっぱい刺して、人を殴るのに使うんでしょ?」
ひーちゃん? それはバットっていうんだよ? 野球でピッチャーが投げてきたボールを打って飛ばすのに使うんだよ? 釘を打って人をぶっ飛ばすものじゃないんだよ?
さっきから思ってたんだけど、ひーちゃんの知識、ちょっと偏りすぎてない? 野球を知らないのに釘バットとか拷問とかは知ってるの?
でも、そうか、今は趣味も多様化してるからね。そういう子がいてもおかしくないのかな。時代の流れだね。
「これも知ってる! 死体をバラすのにつか」
ひーちゃん!? それはノコギリっていうんだよ!? ノコギリは板を切るものであって、遺体を切り刻むものじゃないよ!? どこでそういう変な知識を身につけてくるのかな!?
あ、なるほど、映画で見るの。よく見るんだ、任侠物の映画。そうか、趣味の多様化だね。時代だね、時代。
とはいえ、8歳のひーちゃんにそういうバイオレンスな映画はまだちょっと早いんじゃないかな。へえ、お父さんによくそういう映画を見せられるんだ。そうかい、お父さんには後でちょっとお小言が必要だね。
「あ! これも知ってる! お母さんがお父さんにいつもお仕置きする時に使うやつだ!」
ひーちゃん。それはカナヅチっていうんだよ
春風亭いっ休 profile
春風亭一之輔の三番弟子。
小さいころ祖父母の家にあったセルロイド人形の髪の毛が経年劣化でほとんど抜け落ちて、頭に小さな穴がブツブツ空いていたのが怖すぎて泣いた31歳男性です。。